「人間は怖いかい?」
ナナセがミズエに問う。
「緊張してるのが手から伝わってくるよ」
「気にしなくて良いよ。僕も怖いから」
「この先、誰かが・・・」
「人とは絶対に仲良くしなさい・・・とか」
「人を過度に怖がっては駄目だ・・・とか」
「言ってくるかもしれないけどさ・・・」
「無理にそうしなくても良いよ」
「相容れないモノを無理に好きになろうとすれば
ココロもカラダも疲れてしまうばかりで良い事が無い」
「好きでもないし嫌いでもない・・・っていう
灰色(グレー)な考え方ができるように僕は気をつけてる」
「赤羊ってそういうの苦手なんだ・・・」
「1+1=2っていう・・・単純な世界の方が好きみたいだね」
「ま、人間にとってもそうかもだけど、その傾向が強い・・・って話ね」
「協調の仕方にも色々あってさ・・・ま、赤羊にとっては
人間と無闇にベタベタするような協調のし方は最善手ではない・・・って事が言いたい」
「でも生きていくには人間と協調する事も必要だから」
「人に対する気持ちを・・・曖昧なままで保っておく事も大事だね」
「僕がよく瞑想してる所に連れて行こう」
「人と仲良くするのも大事だけど、逃げ込んで一人になれる場所があると
便利だよ」
「僕は自然が好きだけど、好きだ好きだって言ってるだけでは
自然を守る力は得られないよね」
「アゲハさんに色々教わってごらん。
化学を修めれば、自然環境や生き物達について、自分なりの考えを
持てるようになる筈だ」
「僕も16になるけど、科学的に立証されてない知識の脆さに気付き始めたよ」
「ちゃんと学問が修められる人が羨ましいな・・・」
「ねっ。卑屈になってるわけじゃないけど、僕のこの気持ちを
ミズエちゃんに知ってもらいたいって思っててさ。
迷惑だったら御免」
「本当は現世の千石正一先生みたいな生物学者になりたかったんだけどさ・・・」
「なかなか今の赤羊を取り巻く環境じゃ厳しいよね・・・」
「たとえ架空の動物でも」
「人為的に作られた動物でも」
「生きていて果たすべき役割は何処かにあるモノなのさ」
「炎熱羊という種全体にも・・・」
「ミズエちゃんっていう一人の赤羊にも・・・」
「果たすべき役目は常にあり続ける」
「そうだって無理に信じ込むのもおかしいけど・・・」
「それこそ曖昧に・・・空気みたいにそう思い続けるのも
ベターだったりするだろうし・・・」
「実際、その考えは間違ってないって僕は思うんだ」
「ミズエちゃんも、此処に居て良いんだよ」
「この世に生きてりゃ皆そうさ」
「本当は気にしてるんだろ?両親に捨てられた事」
「思い出して辛くなったら、此処に来て泣くと良いよ」
「その事は僕が知っといてあげるから」
午前中は学校に居た。
午後からパソコンしてる。
名前が書けた。
それだけ。
カックン。
終わり